劇団ひとり『陰日向に咲く』


 この本の最初の頁を開いてからあっという間に読み終え、最後の頁を閉じるととすぐに最初の頁に戻ってもう一度読み返した。二日で二度読んだ。
 『その男、凶暴につき』を劇場で観た時、あまりに面白くて入れ替え制じゃなかったからそのまま三回観た。
 『阿修羅ガール』も続けざまに二度読んだ。舞城作品は繰り返し何度も読むことが多いんだけど他の作家では初めて。


 書いてるのは劇団ひとり
 最初はちょっと気になってたけど手に取らなかった。カバーに写っている劇団ひとりの写真がなんか陳腐に見えた。
「7社から映画化権のオファーが来てんだって」
 帯には「ビキナーズラックにしては上手すぎる」と恩田陸の言葉があって、どこぞの書評では「オチよし、文体よし。すでに直木賞レベル。」みたいなことが書かれていたとか。
 そんな予備知識ありきで読み始めたからこっちも斜に構えてる。阿呆か、読んだろやないけ。
 で、一気に二度読みしてしまった。


 この作品は5本の短編で成り立っている。それぞれ5人の主人公がいる。
「道草」はホームレスに憧れるサラリーマン。
「拝啓、僕のアイドル様」はB級アイドルに恋するオタク。
「ピンボケな私」はカメラマンになりたい風な女の子。
「Over run」は多重債務者でオレオレ詐欺に挑む男。
「鳴き砂を歩く犬」は売れないピン芸人と彼に恋した女の子。
 そしてどの話にもちょっと出てくる「アメリカ兵をぶん殴った男」。
 みんなちょっとダメ人間なんだけどなんか切なくて、いい。
 そして5本が微妙にリンクしてて、最後感動すらする。
 ちょっと泣けたもん。
 小ネタで笑ったもん。
 ちょっと悔しかったもん。
 才能あるなあ、ひとり。


 読み終わってカバーをもう一度見ると陳腐に思えてた写真の彼は、偉大な作家の若き姿にすら見えた。


 ま、まぁまぁ、べ、別に、き、嫌いじゃない、かも。


 そんな感じである。 
 読みなさい。


陰日向に咲く

陰日向に咲く