村上春樹『東京奇譚集』

 映画でも本でも「お金出してまで観たく(読みたく)はないけど、けっこう観たい(読みたい)」ものって多い。でもそういうのってビデオになったりブックオフに並んだりする頃にはなんとなく観なくてもよくなってたりする。やはり旬な時に楽しむべきなのである。だから映画だとタダ券もらったりすれば観るし、本だったら貰ったりすると嬉しい。はい、これ頂きました。ありがとう。現在は僕の読みたいけどお金出したくない度トップは歌野晶午の『女王様と私』です。もし僕にあげたいとか思った人は是非。
 さて『海辺のカフカ』でようやくハマりかけた村上春樹ワールド。『東京奇譚集』はちょっと変わった不思議な話が五篇収められている短編集。『偶然の旅人』『ハナレイ・ベイ』『どこであれそれが見つかりそうな場所で』『日々移動する腎臓のかたちをした石』『品川猿』の五篇はどれも人から「実はこんな話聞いたんだけど」って聞くような、ありそうでなさそうな、でもやっぱりありそうな話。どことなくライトな都市伝説のような話で、登場人物は羊男でもジョーニーウォーカーでもなく、普通の人々。喋る猿は出て来るけど。
 前に『どこであれそれが見つかりそうな場所で』は新潮に掲載されている時に読んだ。舞城の『ディスコ探偵水曜日』の後ろに掲載されていて、「なんかぬるいなあ、村上よぉ」とか思ったけど、こうしてこの短編集に入ってると素敵だったりする。『日々移動する腎臓のかたちをした石』もなんか素敵な感じで、人生でめぐり合うべき3人の女性って…などと考えさせられる。
 なんというかどれも素敵な話で村上春樹って素敵なこと書くなあと。
 とても落ち着いた気持ちになれる本で、ベタな言い方をすれば「秋の夜長を共に過ごすのに最適な一冊」的な本である。
 

東京奇譚集

東京奇譚集