中島らも『酒気帯び車椅子』

jogantoru2005-06-30


 中島らもの遺作は2冊ある。先日読了した『ロカ』が未完の遺作であれば、この『酒気帯び車椅子』は最後に完成された遺作である。“近未来私小説”と銘打たれた『ロカ』は中島らも自身の内面にあるドロドロした全て吐き出さんとするメッセージ性の強い話であり、反面こちらはエンターテイメント性の強い破天荒な物語である。まるで陰と陽のような相反する二つの作品を最後に遺していくなんて出来過ぎな気がして、やけに感服してしまう。
 これは復讐の物語である。
 家族を奪われ、家庭の平和を踏みにじられ、両脚を壊され失った男の復讐の物語である。
 だからエンターテイメントとはいえ、本作には「陽」というにはあまりに悲しく陰惨な事件が中核に据えられてはいる。相当えぐい。うげーやめてーってなる。でもそれを暗く陰気に書くのではなく、きちんと昇華させている感じがする。
 両脚を切断した男は改造車椅子に乗り、ヤクザの事務所に突入する。なんともポジティブでマンガ的な復讐劇だ。ただ後半の復讐シーンがやけにあっけなかったのが勿体ない。が、そこをつらつらと書かれて興醒めするよりも、やはり一気にラストまで突き抜けて書き上げてある方がいいんだろうと思う。料理だっていくら丹念に時間かけて作っても食べるのは30分とかからないのだ。石塚英彦が食べたりしたら3口くらいである。でも、要は美味しければいいのだ。
 でもこの作品のテンションの高さと破天荒ぶりは映画化されてもおかしくないくらい。主人公は…、って思った瞬間的に脳裏に乙武くんが浮かびましたが必死で振り払ってます。が、他にいい人選が浮かばないのでしょうがないね、これは。


 

酒気帯び車椅子

酒気帯び車椅子