防水スプレーとナイフと朝青龍


 なんだか高校生が大変である。
 先日の山梨県で同級生にナイフ投げて頭に刺さっちゃった事件があったかと思えば、今度は高知の名門・明徳義塾高校での同級生刺殺事件。
 山梨の事件は言ってみれば不慮の事故である。昨今のダーツブームのせいだろうか。いや、きっと彼は東京フレンドパークが大好きだったに違いない。始めは同級生とじゃれ合ってただけだったのにだんだんと興奮していき、ナイフを掴んだら周りから喚声が上がり、気が付けば同級生の顔には車の名前やらノートパソコンやらタワシやらと書かれた的がくるくる回り始め、周りの「やめなよー」とかって声も彼の耳には「パッジェロッ!パッジェロッ!」と聞こえ(彼の中ではやはり車はパジェロなのだ)、何だったら関口宏の姿すら見えちゃって、つい投げてしまったのだ。当たってから正気に返った彼は呆然としまくった。そんな説もあるのではないか。ないよね。知ってますとも。


 しかし今回の事件は不慮の事故などではなく本人曰く「殺すつもりで刺した」のである。「数日前に学校で体が触れて口論となった」から「ナイフを持って来て、殺すつもりで刺した」のである。



 で、また出ましたよ。


 『HP上での殺人予告』



 彼のHPには6月25日から事件前日の29日にかけて彼が犯行を決意するまでの言葉が綴られていた。


6月25日
「(ムカツクことがあり)かなりストレス溜まってます」
「(イニシャルを挙げ)憎悪は絶えません」「消せたらいいのにな」


6月27日
「あいつ殺したら今あるストレスも割と消えて、ストレスの元も絶てるんだろうなぁ」


6月28日
「ストレスがそろそろ危険線を越えそう」


6月29日
「人一人殺すことも出来ないなんて情けない。明日こそは殺そう。また『明日こそ』にならないように、ちゃんと殺そう」



 怖い怖い。早速マスコミはHPのことでギャアギャアと喚き始めたわけで、ある番組のキャスターは真顔で「学校側はHPの存在を知らなかったんでしょうか?」とか言ってた。知らないっつの。知ってたら逆に怖いっつの。
 でもあれですよ。俺がなんか犯罪とかしたらこのHPも報道されるんでしょうね。


「犯人は『ハンサム二等兵』というHPで犯行予告をしていたわけですね」
「そうなんです。そして『ハンサム』は犯人の自意識過剰な部分なのですが、一方『二等兵』という上等兵になれない自分という鬱屈も窺えます」


 とか言われるんだろうか。楽しげだ。いや、犯罪とかしませんし自意識過剰でも鬱屈したりとかもしてませんから。



 閑話休題
 明徳義塾といえば文武両道の超有名校であり、出身者には横峯さくら高知東生町田公二郎(広島カープ)、そして横綱朝青龍明徳がいる。
 朝青龍明徳(あさしょうりゅう・あきのり)明徳義塾高を経て99年に初土俵を踏み、横綱まで登り詰めたのである。もちろんその名朝青龍明徳の『明徳』は『明徳義塾』から取っている。だって本名のドルゴルスレン・ダグワドルジと全然関係ないから。三都主みたいにそのまま当て字にしたら『怒瑠檎瑠擦連・堕桑怒瑠児』とかになる。なんじゃこりゃ。ヤンキーでも書けない。
 ちなみに父親の名前もドルゴルスレンで、妹はイチンノロブ。どう書くんだ。異珍野呂部。何部なんだ? なのにどことなく意味が分かりそうだから焦る。
 また全然関係ないがモンゴル大統領の名前はバガバンディ大統領である。


 バカバンディ!


 すごい名前だ。バカバンディ。この人の履いてる変な下着はバカパンティだし、この人がジャンプしたらバカバンディジャンプ!


 うーん、バンディー!



 すいません大統領。そしてモンゴルの皆さん。他意はありません。ちょっと調子に乗りました。
 これからは心を入れ替えて精進します。明日こそはしっかりします。『明日こそ』にならないように、ちゃんとしっかり生きていきます。


 随分と話がずれた。事件のことに戻ろう。
 一つだけ引っ掛かることがある。
 それは『なぜ彼は防水スプレーを吹きかけたのか?』という点である。なぜ催涙スプレーなどでなく防水スプレーだったのか。
 そこに一つの真実があるかもしれない。そこで一つの仮説を立ててみる。


 彼は体が触れたくらいで怒り出し悪口を言いふらした同級生に防水スプレーを使うことにより、こう伝えたかったのではないか。


『そんな水くさいこと言うなよ』



 長々と駄文にお付き合いいただきありがとうございました。