パンク侍、斬られて候

 俺の読書歴の中で最も偉大な存在であり多大な影響を受けたのは舞城王太郎であり、それはやぶさめHBZの公演で如実に表れちゃってて、つーかやぶさめで構築した世界は舞城王太郎へのリスペクトから産まれた世界だったりするわけで、奈津川サーガを形を変えて自分なりに描きたかったりする。
 しかしながら、舞城以前に俺が最も驚愕し影響されたのは町田康の書く世界で、あの独特のドライブ感と言葉のリズム、そしてあの奇妙奇天烈な世界観には『やべえ、文学捨てたもんじゃねえ』という認識をさせられた。そんな町田康どっぷりな時期があったんだけど、あの独特なる読めない漢字だらけの町田造語(読んだ人は分かると思う)と緻密かつ遠回りしまくる文体に少々食傷気味になってて、最近少し離れてた。

 ただこの本はタイトルといい装丁といいすごく惹かれてたんだけど金もなく、ようやくこのほど読了した。
 
 主人公は「超人的剣客」である牢人・掛十之進は黒和藩でいきなり老人を斬り殺しちゃう。そこを黒和藩士長岡主馬に問いただされ、「この老人は腹ふり党の一員であるから斬った」といい「このままでは黒和藩に腹ふりが蔓延しちゃうから腹ふり党対策のエキスパートである自分を雇った方がいいよ」と口八丁適当な言葉を並べて黒和藩に召し抱えられる。掛の言ってることは全然嘘で、腹ふり党ってのはかつて隆盛した新興宗教なんだが、今はもう弾圧され廃れてしまっている。
 腹ふり党の教義では『この世界は巨大な条虫の胎内』にあり、この世界で起こる事はすべて無意味であり、彼らはただ条虫の胎外にある真実・真正の世界へ糞になっての脱出を願っている。そのためには『腹ふり』という一種の舞踏を行わねばならず、腹ふりとは足を開いて腰をやや落とし手を左右に伸ばして腹を左右に激しく揺すぶり首をがくがくっていうバカな踊りで、このバカ踊りに条虫は悶絶し腹ふり者達を排出しようとする。ようするにバカ騒ぎしてりゃOKみたいな物凄くバカげた教えのバカげた宗教。腹ふりは修行とされその中途で死ぬことは『おへど』と称され、死んだ者は『おへど聖者』として崇めたてまつられる。…と、まあ宗教っぽいんだけどこの世は無意味だって考えてるから仕事はしない、盗みをする店を打ち壊すの狼藉なんて当たり前で、都合の悪い人間は『おへどさせていただきます』って言って殺しちゃうというどうしようもない宗教。
 とは言え実際はすでに廃れて解散しちゃってる腹ふり党なんだけど、掛の話した嘘っぱちの話がいつの間にやらうねりにうねって事態はどんどん進行していき物凄く超常現象の起こりまくる大戦争に発展していくっつう『嘘から出たまこと』な話。とにかく後半への怒涛の展開は凄い。喋る猿やら超能力を使える阿呆だとか顔中刺青の入った宗教家だとか出て来る人間も相変わらず変なんだけど理屈の通った屁理屈をこねまくりなんだけど、全てが現代社会とリンクしていてTVに踊らされちゃうバカとか流行を追うことにしか能のないバカの事を言ってたり、侍社会は会社組織やら現代の社会形態やらとそっくりで、どれもこれもが今の日本を痛烈に批判してる感があって考えさせられる。

 とは言え全編に渡って笑えてバカで、あのリズミカルなドライブ感はさらに素晴らしくなっててやっぱ町田康面白いわーと改めて思わされた。最高。