スーツケースにすべて詰め込んで


 気が変わらないうちにここを離れるよと歌っていたのはBOφWY時代のヒムロックだが、気が変わって引き返すべきだった。
 ここ数年で旅行でもないのにスーツケースをガラガラガラガラしてる連中が増えて駅やら街中やらで超うざい。とはいえ僕も本番が近くなると衣装やら小道具やらを詰め込んでガラガラガラガラ稽古場に向かう。
 何故か。
 楽だからだ。
 そうか、みんな楽だからスーツケースか。そしてみんな稽古帰りだったりするんだろうと思う。


 昨日遂に稽古場にスーツケースで参上。なんか本番近いよねーとか思いつつ、結構ハードな稽古をこなす。観たら分かってもらえるんだが精神的に相当ハードなシーンなんかもこなす。
 しかしながら土日と同じ稽古場だったのでスーツケースを置いていいことになった。ラッキー、帰りの荷物少なくて済む。稽古終わったのが退館ギリギリだったため、慌てて台本だのDSだのマンガだのを持ち帰り用の鞄に詰め替えた。
 僕は電車に揺られ渋谷で乗り換えTSUTAYAでCD借りてコンビニで食料を買ってアパートの階段を上がり家の前にいること30秒、家に入ることなくまた歩き出しふた駅先のマンガ喫茶にたどり着いた。
 何故か。


 慌てんぼうのサンタクロースはクリスマス前にやってきたが、慌てんぼうの僕はふた駅先のマンガ喫茶にやってきた。


 何故か。




 稽古場に置いてあるスーツケースに入ってたんですね。







 家の鍵。






 最悪ですよ。


 慌てる乞食は貰いが少ないなどと申しますが慌てる僕には注意が足りない。何故にあの時鍵を確認しなかったのか。ジーンズのポケットにリップしか入ってないことに気付きながら鍵がないことに気付かずリップを塗ってたんだろうか。だって潤いが欲しかったんだもの。ちょっとカサカサしてたんだもの。
 しかしそこで鍵の不在に気付くべきだったのだ。




 そこが昨日のキーポイントだったんです。