ロールマイキャベツ
人によって僕の呼び名は違うものでトオルだったり成願だったりジェイだったりする。昔「君の飲むお茶、きみのえん、僕の飲むお茶、ぼくのえん!」なんてCMがあったけど、ならば僕の全裸はジェイヌード!ってなわけで写真のフリーペーパーを見つけて頬を赤らめたぜ、レッドホットフリーペーパー。
だからと言って脱ぐわけではないが、なんだかそれを期待されてるみたいで気恥ずかしい。中を見るとオダギリジョーやらオフィスで出来るストレッチやらスイーツやらが満載で、なるほどOLのみなさんはこういうのを読むのか、ふふん、なんて思ってる僕のカバンには冷凍されたロールキャベツが入っている。職場でもらってきたのだ。
なんで職場でロールキャベツ貰ってくるんだよと思われるかもしれないが貰っちゃったんだから仕方ない。世の中いろいろあるのだ。
僕は冷凍ロールキャベツをビニール袋で二重に包み、さて今晩はロールキャベツにガーリックトーストにワインかしらんとか思うけど、夕飯は米でしょ、酒飲まんでしょ、つうかロールキャベツってどう調理すればいい?凍ってるからただただ煮込んでいけばいいの?とか思ってると何故か電車は新宿止まりになってホームに叩き出される。
人身事故だそうだ。死ぬんなら俺が帰ってからにしてくれよ。ロールキャベツ溶けちゃうじゃん。
とりあえず小田急線に乗り換えることにするが、カバンの中がひんやり湿ってきている。
微妙だが溶けつつある。
やばい。
ふと思う。
実は僕のカバンの中には冷凍された人間の頭が入っていて、僕はそれを処分しようとうろついている。冷凍庫に入れておけば別に腐ったりしないんだが夜な夜な喚きやがるんでうるさくて困る。仕方ないから処分しようにもこの御時世。簡単に捨てられるわけもなく、途方に暮れた僕は小田急線の車内で溶け出しつつある頭を抱えつつ、自分の頭も抱えている。
見るとカバンはもうぐしょぐしょで底からは溶けたそれがしたたり落ちている。それは水ではなくてとろーりとろーり粘着質な液体である。幸い臭いはしてこないがこうなるとそれも時間の問題。まわりが騒ぎ出す前にと思ったらラッキーちょうど経堂駅に到着、慌ててホームに滑り出す。
経堂駅恵泉通りの商店街を抜け、僕はずっしり重くなったカバンからビニール袋ごと頭を取り出しカバンを投げ捨てる。
恐る恐る袋を広げると中に入っているのは僕の頭だ。
僕の頭は「俺だよ俺だよおめえだよどっちだよどっちがおめえでどっちが俺よ?」とケタケタ笑うもんだから僕はたまらず頭を電信柱に叩きつける。すると僕の頭に激痛が走り、やっぱりこれも僕の頭なんだと確信する。
僕は頭を拾い上げると一目散に走り出す。ビニール袋に入った頭は遠心力でぶんぶんぶんぶん回ってて、その中で頭は「俺だよおめえだよおめえだよ俺だよ回ってるよ俺もおめえも回ってんだよ」とまた笑うので、僕はその声が聞こえないように大声でドナドナを歌いながら走る走る走る。
ドナドナ、ドーナードーナー!
ドナドナ、ドーナードーナー!
何これ?何なの?どーなってんの?
気がついたら僕は家の前にいてカバンも肩からかけていてビニール袋の中にはやっぱりロールキャベツが入っている。
僕は鍋に水を入れてお湯を沸かしてコンソメを適量ぶち込むと、そこにロールキャベツを入れる。
ぐつぐつ煮込まれるそれはもう僕の頭なんかではなくて立派にロールキャベツだ。でもこのロールキャベツを食べて中身がスカスカだったらちょっと凹む。