『ゆれる』

jogantoru2006-07-23



【監督・脚本】西川美和
【出演】オダギリジョー/香川照之/伊武雅刀/蟹江敬三/新井浩文/真木よう子/木村祐一/
ピエール瀧



 

 プログラムの冒頭にこんな一文がある。



 信じること、信じられること。
 裏切ること、裏切られること。
 奪うこと、奪われること。
 許すこと、許されること。
 弟であること、兄であること。



 これがこの映画全部を語ってるというか、人生ってこういうことの繰り返しだけど、なんとなく負けないこと投げ出さないこと逃げ出さないこと信じ抜くことってなんだか大事MANブラザーズっぽい。いやいやいや、そんなことはなく、この映画はものすごく人間の心理の奥底にあるさまざまな「ゆれ」を表していて、そのゆれる兄弟の想いが切なくて辛辣で、くる。冒頭のようなことって、もっともな事を言ってるようで、意外と人間って信じないくせに信じて欲しくて、裏切るくせに裏切られるのはいやで、奪うくせに奪われるのを拒み、許さないくせに許してほしかったりする。そんな人間の本質の部分が、ある事件をきっかけに兄(香川照之)と弟(オダギリジョー)の前に姿を現す。それが『吊り橋を渡るまでは、兄弟でした。』という言葉の意味を深く伝えてくる。でも人間ってそんなもんじゃんとも思う。
 後半に兄が弟にある言葉を投げかけるんだけど、それって見ているみんなに投げかけてるわけで、むしろあらゆる人間に対する言葉なのかと思うけど、思い過ぎか、いや、思ってもいいじゃない。
 吊り橋のように揺れる二人の想いは、それこそ観ている側もがんがん揺さぶって、簡単に言えば、泣けた。


 役者オダギリジョーは「時効警察」とか「夢の中へ」とかの芝居が好きだけど、こういうマジ芝居もやっぱいい。マジ芝居はアレだなあと思ってたのは「SHINOBI」がつまらなかったせいだった。が、今回は香川照之がすごい。いや、凄い。一挙一動が、なんつうかヤバい。イってる。イっちゃってるんだけど、そのギリギリの現実感があって、内面の感情がそのまんま表に噴き出しているみたい。体現出来るな分からないけど、勉強になった。
 でも何気にいいのはキム兄やんで、キム兄やんが検察の役って時点で「ぬな?」とかなるけど、キム兄やん的な笑いを交えつつ、時にマジな切り込みを見せてきたりして逆に駆け引き上手な検察にすら見えてくる。ネタばれになるけどアーチェリーのくだりは笑った。
 ピエール瀧はものすごく普通だった。というか太くなった。


 登場人物それぞれの「ゆれ」が渦巻いて、人間の奥深くにある感情を曝け出していて、心に響いた。こういう映画もちゃんと観るべきである。
 それとテーマソングがZARDじゃなくて、ほんとよかった。