舞城王太郎『SPEEDBOY!』

jogantoru2005-12-12



 群像掲載の本作は『山ん中の獅見朋成雄』の続編と言っていい作品。まさかまた獅見朋が読めるとは思わなんだ。ラッキーだ。
 とは言っても今作に出て来る成雄には名字がない。ただの「成雄」である。「成人のオス」である成雄には背中に鬣が生えていて、100mを7秒で駆けるのだが、どんどんどんどん速くなっていく成雄は音速で走れるようになる。
 群像の見出しにはこうある。


『僕がもっとも愛するのはスピードだ。白い玉を追って音速を駆け抜ける』


 アンテナに入れさせていただいている仲俣暁生さんの海難記によると、成雄は『いつか大人の男になる少年=まだ大人になっていない少年』http://d.hatena.ne.jp/solar/20051211)とあるように、ぐんぐん速度を上げていく成雄はどんどん周りを置いていく。肉体は格段に成長していくんだけど精神は成長しない。常人には分かりえないレベルの世界に到達する成雄には周りの人間なんで足枷であり邪魔でありどうでもいい存在になってしまう。この物語にはさまざまな成雄の物語があって、それは子供だったり、高校生だったり、現在の成雄だったりするんだけどどの成雄にも一貫して足りないモノがあって、それを補う、つまりは成長させていくにはいろんな過程があるのだ(ネタばれになるからあまり書けないんだけど)。
 舞城の書くテーマってどれも普遍的なんだけど、どこかに置いてきてしまっている、忘れてしまっていることで、例えばそれは『好き好き大好き超愛してる。』で愛について、ストレートに書いちゃうようなもんで、それは舞城流の茶化しなのかもしれないけど、それがドーンとド真ん中にストライクだったりする。
 あ。そういうこと忘れてた。
 そういう感覚。
 当たり前のことを「それって本当に当たり前?」って言われて再認識出来るっていうか、改めて考えることが出来る。


 とか言っても、相変わらずの舞城ワールドで怒涛の文章がまさしく加速ギュンギュン音速で駆け抜けてくるもんで、おかげさまで僕の脳味噌は随分活性化させていただいた。