異臭と部屋とメイドと私(前編)

jogantoru2005-09-16


 行ってきましたよ!
 奥さん、行ってきましたよ!
 ちょっとブームが過ぎた感はありますが、今夏話題になったあの家に。


 そう、中野新橋の異臭おじさんの家です。
 最近やけに二人で行動することの多い生野氏(魚類博士・役者)と中野新橋の駅に集合。二人合わせてほぼ60歳になるっていうのに、何を匂い嗅ぎに集まってんだよとか思いますが、そこが大事。嗅ぎたかったら嗅ぐしかねーじゃん。気持ちの問題です。
 ちなみに生野氏はこの事を一緒に芝居してる役者さんに言うと「生野さん何歳ですか?」と即答されたとかで、僕も仕事の帰り際に地図をコピーして場所しらべてると、
職場のSさん「お、成願くん、どっか行くの?」
僕「はい!中野行って異臭嗅いでくるんですっ!」
職場のSさん「・・・何、それ?」
僕「ほら、異臭騒ぎあったじゃないですか!ウンコ煮込んでる奴ですよ!」
職場のSさん「・・・はぁぁぁぁ」
 と、ものすごく長い溜息を吐かれました。『ピュー!と吹くジャガー』でハマーがどよーんってなるみたいな感じで。「ほんなら聞くな!少年の心が分からんのか!死ね!」などとは言わず笑顔で「おつかれしたっ」と駆け出しましたもの。楽しみで楽しみで。バカな人は放っときますよ。


 で、地図を頼りに薄暗くなった中野新橋を歩くこと5分強。
 チリーン、チリリーン。
 どこからともなく聞こえてくる風鈴の音。うーん、風流。いや、違う。なんか怖い。
 こ、これは!即座に僕は頭の中の『中野異臭おじさんファイル』をパララララッとめくる。
 あった。
 『何個もの風鈴が年中ぶらさげられている』
 近い!僕たちは確信して歩を早める。
 と、思ったらいきなり右手に古臭い怪しい住宅。
 見上げると風鈴。
 ここだ!ここがあの悪臭の聖地、共和荘!
 あ、あの縁側テレビで見たことがある!
 しかも縁側では、あの異臭おじさんが鍋をおたまでぐるぐるしているのだ!

 
 
 本当にこんな感じ。


 まさかいきなり異臭おじさん本人の姿を見れるとは。しかも本当に鍋をぐるんぐるんしている姿を! あの中に汚物が!残飯が!どこ汚物に浸したタオルはどこ!おう一年坊、ナマ言ってんじゃないよ! あまりの好機にテンパった僕らは、とりあえず商店街に退避。つか商店街の真裏だもの、そりゃ異臭出したら住民怒るっつの。どの店もビニールのにおい避け?を付けているのが印象深い。
 「よし、もう一回行こう」
 再び行動を開始しようとした時、僕らの頭の上には『?』マークがピコーンと浮かび、なぜの嵐が吹き荒れた。





 「臭くないよね?」



 そうなのである。
 全然臭くない。
 まったく匂わない。くさくなーい。そして、異臭おじさんは穏やかそのもの。キレてなーい。
 のである。
 そんな悲しいことがあるだろうか。
 臭いの嗅ぎに来たのに臭くなかったら何の意味もないじゃん。くるくる回るテーブルの中華料理店でチャーハンのみを食べてるみたいに意味ないじゃん。せめて餃子頼もうよ。ラー油ちょうだい。くるくるくるくる。テーブル回したいじゃん。「うげえ、くせえ!」「おうえええっ」とか言いながら、ちょっと小ゲロ吐いたりして涙目で「やっぱすげえな」と苦しみを分かち合いたかったのに。
 臭くないのである。
 まったくもって臭くない。なんだったら風鈴の音色もちょっと癒される感じだ。
 「よし、もう一回行ってみよ」
 力を振り絞って共和荘に向かうと、今度はゴゴゴゴゴ、シャパンシャパンシャパンと音がする。覗き込んでみると手前にある洗濯機で異臭おじさんが洗濯してる。
 意外にきれい好き!?
 もうどうしようもない。
 僕らはおじさんがいなくなるのを待って、記念撮影をすることにした。家の前に立ちながら「おじさんが出てきたらどうしよう」「そして鍋の中身をおたまでぶっかけられたらどうしよう」「それってモリマンVS山崎邦正の餡かけ対決じゃないか」「むしろウンかけ対決だ」「いや、対決っつーか一方的にやられるね」「ま、面白かったらいいか」とか思考もポジティブになるが、逆にそんな僕らを近隣住民はすごく冷たい目で見ては通り過ぎて行きました。何か言われたら「ああ、そうさ!冷やかしさ!冷やかしだけが人生さ!」と豪語してやろうかと思いましたが、誰も何も言ってはくれず内心ほっとして無事記念撮影終了。


 
 なんだか全然分かんないな。とりあえず縁側は怖くて撮れませんでした。明かりの点いてる辺りで異臭おじさんは洗濯機を回してました。で、おじさんが怖くてずっと家の方を向いている僕。
 でも、臭くないし、みんなも良かったら行ってみるといいよ。むしろくさやを焼いてみるといいよ。いい対決になると思うと。


 「あーあ、なんか肩透かしだね」
 「あ、肩透かしといえば」
 「そうだ、光司くんとこ行こう」
 異臭おじさん邸を後にした僕らはなんだか上手いんだか上手くないんだか分からない感じで貴乃花部屋に向かった。 
  

 (つづく)