三億円あれば
永瀬さんの誕生日である7月15日。仕事帰りに汗を流しながら銀座を歩いて、つまりは汗ダラしながら銀ブラしていると、銀座チャンスセンターの前でわーわー言ってる人がいて何故ならサマージャンボ宝くじ発売日だったからだ。
俺は宝くじを買ったことはないけど、発売初日に銀座にいて日本で一番当たりが出てる売り場が目の前にあればそれはもう思し召し以外の何物でもないし、並んでみたらその売り場でも一番人気の窓口だったからこれはもう当たるしかない。
三億円である。
宝くじなんて普段買わないから分からないが、やはり当たってからのことを考えてしまうようです。三億円あったらマンションを買います。だってマンションを買えば家賃を払わなくて済むんだからラッキーだ。うん、ラッキーだ。
しかしながら、そのおそらく日本で一番当たりが出てる窓口にいたのは死んだような目の冴えないおばさんだった。幸運の女神とは言い難い陰気な彼女だが、これだけの売り場を任されているんだから相当なラッキーガールなはずである。むしろ他人に幸運を与えているのだからあげまんか。そうか、彼女はありとあらゆる幸運を他人に分け与え、そのために夫の度重なる暴力、姑との確執、息子の引きこもり、娘のAV出演など数々の不幸に見舞われた彼女はかくも陰気な顔になってしまったのだ。
だから俺はそんな彼女に言ってやりたかった。
ドンマイ。
しかし言えなかった。やっぱり怖かったからである。
今日。デニーズで食事をすると会計の時にスピードくじを引かされた。当たると次回の食事代が割引されるのである。
1等だった。
なんと500円割引だそうである。ラッキー。いや、ラッキーではない。ひょっとして運を使っちゃってはいないか。
3億円は500円玉で60万枚だ。
たぶんすごく重い。
その時、銀座の売り場の陰気なおばちゃんの顔が浮かんだ。おばちゃんは笑っていた。500円玉の絵柄はおばちゃんの笑顔で60万枚のおばちゃんが一斉に笑い出し俺は耳がキーンとなった。