『約三十の嘘』
【監督】大谷健太郎
【原作】土田英生
【音楽】クレイジーケンバンド
【出演】椎名桔平/中谷美紀/妻夫木聡/八嶋智人/田辺誠一/伴杏里
公式サイトに『ひとつの嘘のためには、三十の嘘を用意しなさい』というサルバトーレ・ワコンの言葉がある。この人は毎朝めざましテレビの「今日のワコン」で紹介されている犬ではないし、お酒飲む前に飲んでおくといいのはウコンだし、若貴兄弟の間にあるのは遺恨である。で、このワコン氏はたぶん有名な作家か思想家だと思う。
豪華寝台特急トワイライトエキスプレスの中で繰り広げられる6人の詐欺師の騙し合い。話のほとんどがこの列車の車内で進んでいく。6人が札幌での詐欺に成功して7000万の現金を得る。そこで詐欺師の6人がこの7000万をめぐって騙したり騙されたりっつう話。これを縦軸にして、6人の人間模様が描かれてたりするわけです。はい。これ元々舞台だったらしいですね。話はほぼ電車の中でしか展開しないのに飽きないのは脚本が面白いんだろう。が、しかし地味。ま、そこがいいんだろうけど、なんか地味。言い換えればシックで大人の香りのするオシャレムービーとでも言うんだろうか。
いや、面白かったんだけどね。
本編で妻夫木くんが『仕事はなんだってキャスティングで決まるんだよ』って言うシーンがあって、果たしてそうだよなーとか思いつつ、この映画のキャスティングが微妙だった気もする。
田辺誠一。
彼は今回の仕事で初めてリーダーに就任したんだけど、もともと鈍くさい奴で仕事が出来ない。そのせいで新参者の八嶋智人に出し抜かれる。ってキャラなんだけど彼には一番大事な『鈍くささ』があまり見えなくて違和感。対照的に八嶋さんは「新撰組!」の時の武田観柳斎みたいに勘違いで厭な感じでよかった。
あと、伴杏里。
この子は可愛い顔して男どもを手玉に取っていく女詐欺師っていう設定なんだろうけど、なんとも垢抜けないというかパッとしない。手品は上手いんだけど。で、この子どこかで見たことあるなあとか思ったら嵐主演の『ピカ☆ンチ』でヒロインだったじゃないですか。出世したなーとか思いつつも他の五人と比べると格落ちだった。手玉に取るんだったらもうちょっと妖艶に可愛くないと。でも、この田舎くささというか垢抜けなさに心当たりがあるなと考えたら『真夜中の弥次さん喜多さん』に出てた清水ゆみとキャラが似てる。清水ゆみも『弥次喜多』では群を抜いて浮いていた。でもクドカン曰く「その洗練されてない感じがいい」と。そういう需要って意外とあるんだな。
音楽はクレイジーケンバンド。全編にりろりろと流れてるCKBがいい。つーかオープニングの映像がすごくかっこよかった。タイトルデザインの渋谷和行は福山雅治とかGLAYなんかのPVとかやってて『死びとの恋わずらい』(主演・松田龍平)で監督もしてるとか。なんともセンスのあるオープニング。
まあ、人生なんてもんは常に自分を騙して騙して過ぎていくわけで、その点で考えると誰でも詐欺師なわけで、要はそれが内に向いてるか外に向いてるか白目剥いてるかって話だ。いや白目は剥かないで。子供が泣きますから。俺らは全体的に嘘の仮面を被って回りに嘘を吐いて、その嘘を守るためにたくさんの嘘を吐いて、嘘を嘘で固めながらしか生きられなくて、結局自分自身にも嘘を吐いてないとしんどいんじゃないかと思う。少なくとも俺はね。だからむしろこの映画に出て来る詐欺師の方がすごく真っ当に見えて、なんだか少し羨ましかった。
【公式HP】http://www.30uso.com/