恐怖の肉地獄
肉地獄。
なんかすごいフレーズである。
そう言えば前に上野でしゃぶしゃぶの食べ放題に行き、『好きな食べ物=食べ放題』な俺としては滅法食いに食い、ほんぎゃあとなるほど腹パンパンに動けなくなった時「ぐああ。肉地獄」などと思ったなあと思うけど本当は思ってはいない。ただ『肉地獄』と聞いてあの日の記憶が蘇っただけである。
しても、肉地獄、である。
人は肉を食べ過ぎて死ぬと肉地獄に落ちるのである。
たくさんの肉が浮かびぐつぐつ煮えた肉池地獄。
針の山に突き刺された無数の肉。
嘘を吐くと閻魔様に舌を抜かれて煮えたぎる鍋へ。
すき焼きとバーベキューとタンシチューではないか。
そんな肉地獄に嫌気のさした罪人カンダダは天上から垂れる一本の糸を見つけ極楽めざして登っていく。それを見た他の罪人たちは我こそもとカンダダに続いて登ってくる。罪人たちは何百となく何千となく真暗な肉の池の底から、うやうやと這い上って細く光っている糸を、せっせ登ってくる。このままでは糸はまん中から二つに切れて、落ちてしまうに違いない。
そこでカンダダは大きな声を出して、
「こら、罪人ども。この糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ」
と喚いた。その途端でございます。
「あ!」。見るとそれは糸ではなく連なったソーセージ。そう言えばなんだか握る手の平もぬるぬるしてきた。すると今までは何ともなかったソーセージの糸が、急にカンダダのぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて切れてしまう。
カンダダもたまりません。あっという間もなく、風を切って独楽のようにくるくる回りながら、みるみる奈落の底へまっさかさまに落ちてしまった。後には唯極楽のソーセージの糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございました。
なんてなことを芥川龍之介も書いてます。
いや、書いてないです。