水無月・朝・コンビニにて

 六月に入った。ジューン。村上ショージがやりそうである。
 ジューン!村上ジューン!
 そう言えば村上淳はどうしてるんだろう。まあ、いいか。
 陰暦では六月のことを水無月という。「なんで梅雨になるのに水の無い月なわけ?超雨降ってるじゃーん、意味わかんなーい」という婦女子の声も聞こえてくるが『水無月=水が無い月』と考えることこそ早計である。水無月の「無」は「の」にあたる連体助詞「な」であり、即ち『水の月』という意味になる。「紛らわしいことしてんじゃねーよ」という声も聞こえてくるが、俺が作った言葉ではないし、それもまた情緒ってもんだ。ちなみに梅雨だから水の月なのではなく、陰暦六月は田に水を引く月であることから水無月と言われるようになったのである。

 
 まあ、ここからの話は六月はまったく関係ないが。
 まあ、月も変わったわけだしいいんじゃないかと。


 毎朝コンビニに寄るんだけど、朝のコンビニってのはなかなかに混雑している。みんな微妙に急いでるから微妙にギスギスしてたりする。一つのレジだけで行列しててもう一つのレジが開いて「次にお待ちのお客様どーぞ」とか言われて、次のお客様だった俺がタイミング外してその次のお客様とかに新しいレジ取られるとムカッとなる。あからさまに舌打ちをしてみる。でも負けは負けだし振り返られたら視線を反らすのが俺だ。
 朝イチからそんなちょっと嫌な気分になったりするとなんだかその日一日が嫌な感じになるように思える。午後とかになると忘れてるようで実はその日の陰鬱な気分の最下層には朝のコンビニでのちょっと嫌な気分が漂ってるわけ。
 だから俺はなるべく愛想よくしてやろうとか考える。俺がいつも寄るサンクスの眼鏡のバイトくんは仕事遅いしドン臭いし俺が「ケント1の長いやつ」って言うと当たり前のようにLARKを渡してくるが吸うまで気付かない俺が悪いのだ。だってお釣りの23円とかも丁寧に両手で持って渡してくれるのだ。500円玉も1円玉も差別せずに。だからOK、優しくしてやらねば六月だし。と六月を無闇にこじつけながらも俺は優しくしてやるのだ。


 今朝。
 今朝もそのドン臭い眼鏡くん(この時点で全然優しくない気もするが)はのろのろと仕事をしているらしく俺の前でレジされてるスーツ姿の40代くらいの男は背中からイライラを撒き散らしてた。その男は俺よりも小さいんだけどなんか髪の毛茶色でサラーとかしてて、それって「ロングバケーション」の時のキムタクみたいな頭で「あ、こいつその時に真似てちょっと褒められてそれがいつしか自分の定番ヘアスタイルみたいな顔してっけど、キムタクに憧れてるみたいだっつうその一点だけですげーかっこ悪いよそれ」とか思った。そんなやつ。
 眼鏡くんはのり巻きを袋に入れながら言う。
 「お箸はおつけしましょうか?」
 いやー、それ上品だなおい、とか思いつつもそれが眼鏡くんの持ち味なんだよねーとか思ってたらその男は、


 「いらない」


 おいおいおい。
 と俺は思う。
 そこは最後に「です」でしょ。それが礼儀でしょ。
 とか思ってるとさらに言う。


 「いくら?」


 眼鏡くん、レジ打つの遅いんだもの。慎重派なんだもの。仕方ないじゃん。つーかタメ口はねーだろ。友達とかじゃないのに。そういう言葉の端々に礼儀とか、優しさとかを使っていこうよ。そういうとこから反戦は始まるんじゃねーの。つーか完全に見下してるもん。なんだお前何様だ?あん?そうか、神様か。神様気取りか。なんだ、お客様は神様か。そうか、そうだな、うん、確かにお客様は神様だ。でも神様でも現人神でもそれは言葉のあやなんだし、その辺はわきまえろっつの。
 とか思ってると、眼鏡くんは「こちらお釣りになります」とか言って丁寧にお釣りを渡そうとしてんだけど、男はそれをひったくるように取ろうとするとジャンバラビーンとお釣りは床に落ちちゃって、男は「マジかよー」とか言ってしゃがんでるけどマジだ。マジだしざまあみろだ。眼鏡くんは「すいません」とか言ってるけど謝る必要などないのだ。朝からそんな態度でいたら罰も当たるのだ。
 そいつが店から(肩を怒らせてる風にして)出て行く後ろ姿を見ながら、こいつ店から出た途端にあわてん坊中学生のチャリンコに吹っ飛ばされて怪我とかすればいいのに、とか、田んぼから引く水が間違えてあいつの家に引かれて水びたしとかになって床に置いてあったテレビジョンとかびしょびしょになって今日何の番組やってるのか分からなくなればいいのに、とか思った。
 だから今日はなんとなく気分がいいのだ。