『真夜中の弥次さん喜多さん』

jogantoru2005-04-14

 「オイラ、リヤルがとんと分からねえ」と呟くヤク中の恋人・喜多さん(中村七之助)を立ち直らせるために弥次さん(長瀬智也)は喜多さんを連れてお伊勢参りの旅に出る宮藤官九郎初監督作品。もう多くを語ることもあるまい。
 もうめちゃくちゃ。でも、そんでいいじゃん面白いんだからと思える。小ネタから大ネタまで見所満載ゲラゲラ笑いっぱなしなんだけど、その中に切なさとかラブとか死とかいろんな深いテーマがあったりして、あーもう一回観なくちゃいかんなこれは。
 パンフレットによると当時、富士山とお伊勢さまというのはどちらも「死の国」を象徴していたんだとか。「富士山=暗い死の国」で「お伊勢さま=明るい死の国」を意味していた。「死」という概念からすればどちらも喜多さんの言う「リヤル」なのかもしれないけど、どうせ死ぬんなら明るい方がいいにきまってんじゃねえかっていう考え方にこそ「リヤル」が在るんじゃないかと思う。ネタばれになるからあまり書けないけど、二人にはいろいろがあって、それを乗り越えて突き抜けてその先には明るく輝くお伊勢さまが待ってるわけである。
 つーかキャストが豪華すぎ。主演の二人はもうすっかり弥次さんと喜多さんであって、特に喜多さんの中村七之助は最高。クスリ切れた時の表情なんてこれこそリヤルとか思っちゃうのは良くないのかな、でもすごくキレっぷりと切なさの両方が出てて感情移入しまくり。阿部サダヲクドカン作品における阿部サダヲな位置(これを求めてるんだね、こっちも)だし、古田新太なんか台詞一つで場内大爆笑だもん。荒川良々のところは完全ネタばれになるから言えないけど、あんな世界だったらちょっと行ってみたいような気もするし。松尾スズキの「ひげのおいらん」に爆笑し、中村勘九郎とかありえない事になっちゃってるし、板尾創路の頭パッカーンに心奪われつつも泣かされたり。懸念だった小池栄子も案外良かったし、苦手の山口智充でも笑えたし、ARATAとか麻生久美子も意外と作品に溶け込んでた。なんか「キャストが凄い」っていうのはあんまり褒め言葉じゃないかもしれないけど、これだけ多彩なキャストを使って贅沢に遊んでハジけても作品が崩壊することなく見事に成立しちゃってるのは、作品全体に一本芯が通っていてそれが揺るがないからである。クドカンお見事。つーか最高。めちゃめちゃホットやで。