林家正蔵襲名披露in末広亭

 土曜日なので念願の林家正蔵襲名披露興行を観に新宿末広亭へ。
 
 ん?
 
 そこまで書いて「ん?」と思う。
 「あれ?同じようなこと書いてない?デジャブ?」と思う。
 しかしそれはデジャブでもモジャモジャなデブでもない。つうか当人なので全然知っているんだが、つまりは『新宿末広亭の襲名興行に上方より笑福亭鶴瓶出演』の情報を得て今週二度目の寄席鑑賞となったのである。
 鶴瓶の落語が聴ける。落語ハマりかけの今、そんなこと言われたら食い付かないわけにはいかない。末広亭での襲名興行には上方から三人の噺家が交互出演する。1〜3日が鶴瓶、4〜7日が桂春団治、8〜10日が桂三枝。三枝も見たいがやはり鶴瓶である。鶴瓶と落語とはなかなか結び付かない。15日開始の『タイガー&ドラゴン』でも鶴瓶噺家役ではなくヤクザの親分役なのである。それだけに鶴瓶の落語が殊更に見たいのだ。
 金曜の『たけしの誰でもピカソ』で林家正蔵特集だったせいか末広亭には長蛇の列。どうにか席を確保したけど、場内は桟敷席も二階席も立ち見も満員の大盛況。客層も鈴本の時より若い。
 

 トップバッターは林家木久蔵の息子である林家きくお。噂によるとかなりバカらしく期待していたけど何故か出演せず、代わりに林家一門の若手(名前忘れた)と林家ひらり(落語界に15人しかいないという女流噺家)が前説をして始まる。この林家ひらりは『笑点』で山田隆夫に座布団を渡す役をしているんだとか。


 まずはギター漫談のぺぺ桜井。もうこの字面だけで古臭いんだろうと油断してたらこれが面白い。きみまろばりに毒を吐くわ、喋りに切れあるわ、客いじり上手いわでいきなり満足。


 続くは『笑点』で病気療養中のこん平師匠の代打を務める林家たい平。いぶし銀というか全てにソツない。動きも大きいしネタに歌舞伎を取り入れたりと全く飽きさせない。風呂屋の番台に上がったスケベ男の妄想話『湯屋番』。これ面白かった。数十年ぶりに『笑点』新メンバーとなるのも分かる。


 次は林家いっ平。登場からきらっきらしてて華があり、おばさん受けよさそう。落語界の氷川きよしか。途中正蔵師匠が乱入するというサプライズもあり大盛り上がり。三平はやはりこのいっ平が継ぐんだろうか。


 続いては太神楽曲芸(だいかぐらきょくげい)の翁家勝丸で、投げ物と呼ばれる芸の一つの「花籠鞠」。これは機関車の先頭車両みたいな物を使って玉を操る芸。この説明だと全然分かんないな、これ。簡単に言えば機関車みたいな道具を使った高度なお手玉といったところ。あ、こんなだ。
 
 写真の人は勝丸じゃないけど。
 しかしこの勝丸さんが緊張してたのか玉をポロポロ落とす。だんだんと可哀相な感じになり、連れも『もしや彼は本当は噺家になりたかったのに「君はこっちやりなさい」って言われてやらされてるんじゃないか』と心配していたが『そんなことはない!きっと勝丸さんは最初から太神楽曲芸がやりたかったんじゃ!』と強引に納得。その気持ちが届いたのか後半は盛り返していた。


 また落語に戻り先日の鈴本演芸場で口上をしていた橘家圓蔵。始めグタグタと普通の話をしていたのに突然ネタ『猫と金魚』が始まり、場内は「………」。
 いきなり何事?とか思ったら圓蔵師匠、
 『あたし分裂症ですから、いきなり噺始めますから』
 いきなりギリギリリアルっぽいカミングアウトに場内はまた「………」。
 え?これ笑っていいんだよね?と俺らゲラゲラゲラ。そういうネタ大好き。
 思った以上に破天荒な人でメガネ曇っちゃってなかったけど『分裂症』は本日一番のヒット。思い出すといまだに頬が弛む。


 中入り前ラストは鈴々舎馬風。「今日は6割の力でやるから」の言葉通り気持ちよさそうに美空ひばりメドレーを歌っていた。
 


 中入りと口上を挟んで登場したのが三遊亭金馬師匠。76歳?とは思えない軽快な感じ。何しろ表情がいい。噺は向かいのウナギ屋の匂いでご飯を食べる『鰻のかざ』。もうこっちまでウナギを食べたくなるような。これはサゲを何となく知ってたし、単純に楽しめた。


 いよいよ終盤に入り今度は林家木久蔵。口上で進行を務めており「意外と真面目なのか」と思ってたらやはりバカ。師匠である故・三代目桂三木助とのエピソードを形態模写を交えた創作で語り、笑いが絶えない。やっぱり木久蔵面白い。でも親しみありすぎて「師匠」って付けずらいのも木久蔵の良さだと思う。


 そして場内に「待ってました!」の声が飛び交った笑福亭鶴瓶がいよいよ登場。ネタは自身の高校時代の話だという創作落語『青木先生』。授業の度にその先生をからかってたという話なんだけど、もう鶴瓶の独壇場。高座っつうよりライブ。むしろ高校の時に教室で面白いこと言ってる奴を囲んでるみたいな。話自体にも伏線なんかがいろいろあり『鶴瓶すげえ』と改めて感服。やはり鶴瓶噺家なのであった。今思い出しても一番覚えてるのは鶴瓶だってのはやっぱり一番面白かったんだと思う。


 紙切り林家二楽を挟んで、林家正蔵師匠の登場。前半の話が鈴本の時と同じネタだったのはご愛嬌。噺は桂米朝直伝というスリの人情物『一文笛』。ええ話や。鈴本で見た『ねずみ』よりも全然よかった。サゲも気が利いてて好き。正蔵の噺は途端オチを二つ見たけど、途端オチが好きなんだろうか。


 全体的に客がよかったのか鈴本の時より笑いも絶えずいい雰囲気。鈴本よりこっちの方が寄席の空気って感じなのか。鈴本演芸場はどちらかというと上品な感じがあり、末広亭は庶民派な雰囲気でよかった。なんか舞台がすごく近い感じでライブ感があった。
 帰りにラーメンを食って帰る。特にお腹が空いてたわけじゃなかったけどラーメンが食べたかったのだ。案の定食べ始めた途端に満腹に。
 

 あ。
 木久蔵のせいだ。