現代っ子世に憚る。

 3月だ。弥生だ。今度の日曜には弥生賞がある。そう言えば競馬ってのはレース名に四季折々の名前が冠されてたりして意外と情緒に溢れている。しかしながら最近はそういう季節の移ろいとか気付かないで生きてんなあなどと思いながらの朝の陽射しに近付く春を感じちゃったりしながら電車に乗り込む。
 電車に乗ると近くには小学生女子の集団がいてきゃっきゃ話をしてる。疲れた顔のオッサン集のする車内に元気印が満開である。するとその中の中心人物であろうメガネをかけた女の子(なんともスネ夫的雰囲気を醸し出している)が言う。
「ユッケって美味しいよねー」
 すると他の子が「何それ?ユッケって何?」。するとメガネっ子は「生の肉よ」とさも当たり前のように返す。「えー、生の肉!?ひゃー」みたいに盛り上がっているみんなだが一人は一生懸命ノートに書き物をしていた。すると一人が「やだー、またメモってるー」と言い出し、言われた三つ編みの女の子は小さなノートに『ユッケは生の肉でおいしい』って書き込んでいた。そんな光景を見ながら、この子らと同じ小学生だった頃の俺はユッケはおろかカルビすら知らなかったし、焼き肉といえば鉄板というかホットプレートで肉(部位はおろか牛か豚かの違いくらいしか分からなかった)とウインナーと野菜を焼く食べ物くらいとしか認識してなかったなって気付いて、俺とこの子らの間には育ってきた環境が違うのは否めないし、そもそも成長する上での土壌が違うし、どぜうは泥臭くてやっぱり食えないと思った。
 さらにメガネっ子は「それでー、うちのベンツの隣りに止まった車から出て来た外人があべこうじに似てて本物かと思ったー」とか言い出したらがやはり三つ編みの女の子はそれも逐一ノートに書き連ね、「えーそれもメモるのー?」とツッコまれながらも「だってー」と反論していた。だってじゃないと思うが。でも俺は当時ベンツなんて知らなかったし、高い車と言えばポルシェとかカウンタックとかのことで、それ以外にはカローラしかないと思ってたし『あべこうじ』って誰?って思う。どっかで聞いたことあるし確かにくぼこーじとも似てるんだが、調べてみたら先日のR-1グランプリで3位だったそうだ。しかしその顔は「外人」というには程遠くせいぜい茶髪なくらい。さらにメガネっ子の話題は今年の流行語大賞の話に。彼女によれば最右翼はアンタッチャブルの「あーざんす」だとか。確かに。しかしそれはどうかなと俺は思う。この時期に流行っている言葉は昨年の「間違いない」同様に候補にすら上がらなかったりするんだぜ、と。するとメガネっ子はすかさず言い放つ。
「でも早い時期にブレイクしちゃうとダメなのよね。要はタイミングだからね」
 こいつ出来る。
 そして意外と分かんないぞ若者文化などと考えてる俺の横で三つ編みの子はやっぱりメモっていた。『タイミング』のとこをぐるぐる丸で囲みながら。