PURPLE HIGHWAY OF ANGELS

 高校ん時の愛読書といえば専ら吉田聡のマンガだった。『スローニン』『純ブライド』『湘南グラフィティ』『ちょっとヨロシク!』『鬼のヒデトラ』など好きな作品はたくさんあるけどやっぱり一番は『湘南爆走族』である。
 まあ別にヤンキーになりたかったわけじゃないんで『BE-BOP HIGHSCHOOL』とか全然好きじゃなかった。つーか『ビーバップ』はいつも顔アップでだらだら喋ってるだけだし第一女の子がかわいくもなんともねえからでもあるのだが。やっぱり『湘爆』の方が絵もきれいだし何より吉田聡のギャグは何とも肌に合って『湘爆』にはかなり影響を受けた。
 そんな俺のノスタルジックな気持ちを刺激し、物欲と節約の狭間に苦悩させる物があった。
 
 ヤマトの食玩湘南爆走族』シリーズ。湘爆チームの江口洋助、石川晃、丸川角児、原沢良美、桜井信二、それと敵対する地獄の軍団の権田二毛作、そんな彼らが貴方の部屋に!きええええ、欲しい!とか思いつつも無駄遣い無駄遣いと自分に言い聞かせつつ、欲しがりません勝つまではと陛下のために戦ってなんぼだと自分を鼓舞しつつ、遂に購入を決意。俺は『湘爆』では親衛隊長・石川晃が大好きなため「運試し、運試し、晃が出たら俺はものすごく幸運なのである」などと自分を説き伏せ購入。余裕でメシとか食いつつもやっぱり中身が気になってソッコー開封

 

 …マルだ。
 特攻隊長の丸川角児。「あーでも俺3番目にマルがいいから」なぞとまた自分を激励しつつなだめてみても一度買っちゃったら欲望を尽きない。あああ、晃が欲しい!晃が欲しい!晃!晃!あきらあああ!
 ものすごく押しの強い愛人の叫びのようである。しかも晃ってのはうちの叔父の名前なので何とも変な気分だ。
 で、居ても立ってもいられない俺はそのまま店に戻る。「とりあえずあと7個残ってたから、うーん、2個買っちゃう?えー、それはお金使い過ぎじゃね?じゃあ一個?でも、それで権田とかだったら凹むしなー、えーいままよ、2個だ、2個買うべしだ!」とふんふん唸りながら売り場に行った。
 で、売り場に到着、さっきの食玩コーナーに着くとなんかおかしい。
 ん?
 俺お目々をごしごし。
 あれ?
 俺店間違えた?
 んなはずはない。

 なくなってるのである。

 さっきまで『湘爆』のみんながいた場所。そこだけポコーンと何も置いてないのである。ぽっかり空いた心の隙間のようにそこだけいきなり更地になっております。
 一瞬何が起きたのか分からない俺はとりあえず売り場を一周して戻ってみる。
 ない。
 そっか。と、逆周りで一周。
 やっぱりない。

 えええええええ!だって2時間も経ってねーよ、何?何が起きた?陰謀?何の?何陰謀?何の陰謀?何ジャジーラの仕業?とか思いながらも冷静になってくると7個の『湘爆』を一気に大人買いして不逞な野郎がいたんだと推察。だって7個×630円で4410円だよ。そんなの買うなよ。俺の夢砕くなよ。夢破れ帰路に着く俺は「買い占めたやつんとこにはマルが入ってませんよーに」とか「全部権田とかでありますよーに」とか小さい女々しい恨み節ばかりを願って止まなかった。