添乗員さんってのは大変である

 飛行機ってのは何度乗ってもあの離陸する瞬間の体の中で内臓やら腸やらがぐりんぐりんしてる感じが気持ち悪いんだけど、まあそんなんは大人ですからちょいと眉毛を上げるくらいで紳士に耐えて何食わぬ顔でイヤホンから流れる歌謡曲に耳を傾けるとZARD「負けないで」やら猿岩石「白い雲のように」やらといささか古いチョイスにギョフンとなってチャンネル替えるとイヤホンから聴こえてきたのは森田童子の「ぼくたちの失敗」。
 こりゃ墜ちるなと直感しつつ中途半端な上に狭いからものすごく食べにくい機内食を片付けてたらザッツ台湾到着である。
 到着すると先ず入国審査ってのがある。つまりは入国を審査するってわけだ。他の事を審査されても困るし、心構えも出来てないからきっと落とされていたと思う。だから入国の審査でよかった。
 で、これがものすごい人だかり。よく見るとみんなどうやら入国したい模様。あまりのライバルの多さに肩を落とすも負けじと並ぶ。が、どこに並んでいいやら分かんない。中国語はもちろん英語すら分かんない。
 こういう時に頼れるのが添乗員さんという存在。添乗員さんは俺らが飯食ってる時も買い物してる時も観光してる時も常に何かに添乗しながら世話を焼いてくれるのだ。
 だから俺らは添乗員さんの言葉を自然と待ってしまう。<添乗員さん=何でも知ってる旅のエキスパート>みたいな先入観がそうさせるのである。見るとそれぞれの入国ゲートの上には電光掲示板があり中国語と英語で何か書いてある。それには2種類あり、ある電光掲示板はすべて緑の文字が浮かび、一方はすべて赤である。緑か赤か。とりあえず赤に並ぶ。と、そこに添乗員さんが現れ、
 「赤、はい、これ大丈夫ですから」
 安心安心、さすが添乗員様。もっともっと俺たちのツアーをコンダクトしてくれ。などと畏敬の念すら思っていると何だかざわめきが起こり、みんな口々に「ここ違くねえ?」、そして「日本人はここじゃない」って言われた。ざわざわざわざわ。よく見ると掲示板の赤の文字には英語で『Citizen』とあり、緑の文字には『Non-Citizen』とある。赤=Citizen=台湾の人、緑=Non-Citizen=外国人、っつうわけである。
 つまり間違っているとこに並ばされてたってわけである。
「おいおい、ちょっと待てよ、どうなってんだよ」とか言い出す輩までいて、わー何かやな感じーとか思いつつも俺もやっぱ腹が立って段取り悪りーなーこいつよーとか思っていたら、彼はボソッと言った。
「…すいません、僕、色があまりよく分からないんで」
 入国直前からものすごく凹んだ。そして昔オレンジというコントで色覚異常の歌を歌ったことを少し反省したりしました。

 ちなみに彼は首からてるてる坊主を下げていた。もちろんそんな彼のおかげでほどほどに雨は降りました。