老女、松屋でノリノリ

 体調が悪い時は肉や卵黄を食べるべきだと思い、松屋で復活の牛めしランチ。久しぶりに食うと牛めしも美味いね、なんて普通なことを思っていると斜め前方にやたらと喋ってる婆さんがいる。


 


 見た目はなんとも上品そうな婆さんなんだが、両隣に向かって、まあペチャクチャペクチャと喋ってる。



 しかし、





 両隣には誰もいないのである。




 誰もいない両サイドに向かってしきりに話し掛け笑う姿はさながらいっこく堂のよう。だが、まったく笑えない感じだ。だってちょっと精神がアレなのだ。それを知ってか店内の全員が優しく無視してる。それが大人の優しさなのだ。



 「すいません、すいません」


 婆さんが店員を呼んでいる。
 何事!?と見ると婆さんは財布から10円玉を数枚出して言った。



 「海苔ください」


 え?
 海苔?
 
 海苔(50円/0kcal)



 婆さんは店員が持ってきた海苔を受け取ると、袋を丁寧に開いて中から一枚取り出し、それを両手で掴むと上品に口に運ぶ。
 まるでカナッペを食している貴婦人のように。



 
 誰だ、この人たちは。
 幸せそうだなあ。


 婆さんも幸せそうな顔でパリパリパリパリゆっくりと一枚ずつ上品に食べ、その合間に両隣の見えない知人にしきりに話し掛ける気遣いまで見せてくる。



 僕の視線は婆さんに釘付けで牛めしもなかなか進まない。
 すると、婆さんが何やらガサゴソとし始めた。どうやら店を出るようだ。それを察知した僕は思った。


 後をつけたい!
 婆さんの奇行をまざまざと見せつけられたい!



 僕は慌てて残りの牛めしを食べ、一足先に店の前で張ろうと立ち上がると婆さんは財布を出して言った。





 「海苔ください」



 



 海苔の皿だけが7皿積み上がっていました。
 そして僕もちょっと海苔が食べたくなった。



 世の中には不思議な人がたくさんいる。しかしそれを少しでも理解出来ると奇行もなんだか腑に落ちてくる。
 でも和泉元彌のプロレス参戦だけはどうにも理解出来ないんですよ。ものすごく観たいけど。