迂闊の夏


 いよいよ明日は劇場入りという夜、稽古を終えて家に帰ると真っ暗です。スイッチ入れても真っ暗。感のいい僕は「おいおい、誕生日過ぎたのにびっくりパーティーかよコノヤロウ」なんて思いましたが、そんなはずもない。



 電気停められてました。



 油断。僕は油を断ったことはありませんが(勧められたこともありませんが)、油断は大敵でした。
 まさかこのタイミングで…。
 僕は真っ暗な部屋でぽつねんと立ち竦み、汗だけが滝のように流れました。


 僕は公共料金を引き落としにしてないんです。なんか自分が稼いだお金がいつの間にか抜かれてる気がしてどうにも腑に落ちない。いや一言ね、「悪いけど明日電気代引き落とすわ、マジ申し訳ないんだけど」みたいなこと言ってくれればいいんだけど。もちろんメールでも構わないし。長い付き合いなんだから。
 しかしそんなことはしてくれないんで気が向いたら払いに行く。その方が「使ってやってる感」があって、気持ちの上で優位に立ててる気がするのだ。


 しかし、油断していると大変な事態に陥る。これが本番前夜だったら汚い体で舞台に立つ羽目になっていた。大丈夫、払いましたから。


 でもそんな状況もポジティブに捉えないと暑さのせいで自殺でもしかねません。僕はそれを『俺だけのオンリーワン停電〜強制省エネ断行の夜〜』と名付けることにし、真っ暗な部屋で温かくないお風呂に浸かり、自分を見つめ直してみたりすると不思議と精神も落ち着いてなんだかいい感じ。そこには「そう思い込め俺」という自己暗示の嵐が吹き荒れていましたが。


 ともかく迂闊だった。
 迂闊の夏はまだまだ暑くなりそうです。