遙かなるAugust

 8月だ。日本名だと葉月、英名だとAugust。
 Augustって何のことだろうか。August生まれとしてはAugustの意味くらい知っていなければならない。


 夜の道を車で走る。窓を開けると熱気をはらんだ風が車内に飛び込んできてクーラーの風と混ざり合う。首都高から見上げるとトーキョータワーが輝いていて、その向こうの空に花火が輝く。夏の東京には宮沢和史の歌声がよく似合う。
 僕は高速を降りて街を駆ける。前を走る車のテールランプが小気味良く左右に揺れる。軽い空腹を感じた僕たちは食事の出来る店を探してみる。どこでも構わない。少し小休止出来ればいいだけなのになかなか見つからない。そう思うだけで空腹感はどんどん増してくる。
 焦燥感に包まれた僕は夜の熱気さえ疎ましく感じ始め、窓を閉め音楽を止める。
 沈黙が車内を支配する。
 僕はアクセルを踏みながら幼い日の夏のことを思い出してみようとするけど増幅された空腹感は僕の思考さえ遮ろうとする。
 すると夜の闇の中に煌々と光る看板を見つけて僕は少しはしゃいだ声を上げる。


 「Oh!ガスト!」


 僕は「これがAugustの由来なんじゃないか」と思うけどガストは反対車線側にあって瞬く間にバックミラーに消えていく。
 
 
 再びの沈黙。
 耐えきれなくなった僕が窓を開けると車内には熱気と一緒に大きな蝉が飛び込んできて暴れ出す。あちこちぶつかりながらジタバタと狭い車内を飛び回る蝉は怖くて滑稽だけどどこかもの悲しくて、それはまさに狭い日本の夏をせせこましく動き回る僕らそのものだ。
 ようやく窓から逃げ出してた蝉を見やるとその先にまたガストの看板が見えるけどやっぱりそれは反対側にあって僕はアクセル踏みながら海行きてーなー、でも痩せなきゃなーと思うけど海に行く気も痩せる気も毛頭ない。